映画「ヒューゴの不思議な発明(3D)」感想

3Dで観て欲しい映画。
何故なら”映画”の進化をはっきりと実感して欲しいから。
そして進化しながらも変わらぬものがそこにある事も。
白黒のちょっとした映像の見世物だった映画が、夢とメッセージを伝える手段となり、人々に喜怒哀楽を与え、多くの魔法を現実にした。映画好きなら、作品のそこここにあふれるスコセッシ監督の映画への愛を感じる事が出来るだろう。
冒頭、3Dの奥行きのある画面の更に奥へ突き進もうとするかの如き視線。どんどんと駅のホームを構内を駆け抜けてゆく。そして少年ヒューゴが映る。セリフよりも情景で語らせる。古きパリの駅舎、時計塔に隠れ住む少年。厳しい現実と隣り合わせの壁の中。壁の外で繰り広げられる人生。
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世界初のSF映画「月世界旅行」、サイレント映画、ロイド、チャップリン・・映画が好きな人間なら何処かで目にした映画史上有名な作品。再現された撮影風景、映像のマジックに3Dを加えて、当時の魔法の上に新しい魔法を施す。スコセッシ監督は3Dの画面の奥に肩まで腕を突っ込んで、様々なシーンを取り出しては楽しそうに見せてくれる魔術師のようだ。かつてメリエスがそうであったように。
父の形見の機械人形と少年、機械人形が動き出した先にある冒険。そう聞いてもっとファンタジーの世界を想像していたが、私の期待したファンタジー(指輪物語やナルニア国とか)とは別のファンタジーがそこにあった。それゆえ、後半はやや裏切られた気分にはなったものの、スコセッシ監督の映画愛がそれを凌駕した。

オートマタ(機械人形)が好きだ。河口湖のオルゴールの森美術館へ行って、彼等に会うのが好きだ。運が良ければ動く彼らを見る事が出来る。軽業を見せたり、歌を歌ったり、しゃぼん玉を作ったり。映画に登場する機械人形はペンを操る。文章ではなく絵を描く。その絵から人々は失った人生を取り戻す。人形の顔は不思議だ。ひとつしかないはずの表情が笑ったり悲しんだりしてみえる。
映画も観客の前にあるのは今も昔も平面のスクリーンだ。しかし白黒が色を帯び、音が与えられ、人々の動きは軽やかになり、いまやどこまでも広がる立体の世界を手に入れた。空っぽだった人々の心にひとつひとつ希望が増えていった如くに。
子役もすべての役者も達者だが、89歳のクリストファー・リーの存在感が良かった。彼は映画の舞台になった1930年代のパリに行った事があるそうだ。彼自身が生きた映画史である名優の姿、リアリティをいうならこれ以上のものはあるまい。かの国では時にこういう映画を作る。先人への敬意を忘れずに。良い事だと思う。
ハワード・ショアの音楽はクローネンバーグ好きで「ロード・オブ・ザ・リング」好きの私には耳にうれしい。
普通の子供になってしまったラストのヒューゴや収拾出来ていないエピソードに物足りなさを感じるものの、手堅く美しい映像を観て楽しむには良い映画。
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Hugo
監督 マーティン・スコセッシ
脚本 ジョン・ローガン
原作 ブライアン・ セルズニック『ユゴーの不思議な発明』
製作 グレアム・キング ティム・ヘディントン マーティン・スコセッシ ジョニー・デップ
音楽 ハワード・ショア
撮影 ロバート・リチャードソン
編集 セルマ・スクーンメイカー
製作会社 GKフィルムズ インフィニタム・ニヒル
ヒューゴ・カブレ エイサ・バターフィールド 橘敏輝
イザベル クロエ・グレース・モレッツ 山口愛
鉄道公安官 サシャ・バロン・コーエン 村治学
ジョルジュ・メリエス ベン・キングズレー 坂口芳貞
ヒューゴの父 ジュード・ロウ 加瀬康之
クロードおじさん レイ・ウィンストン 辻親八
ラビス氏 クリストファー・リー 長克巳
ママ・ジャンヌ ヘレン・マックロリー 野沢由香里
フリック リチャード・グリフィス 村松康雄
エミーユ夫人 フランシス・デ・ラ・トゥーア 立石涼子
リゼット エミリー・モーティマー 高橋理恵子
ルネ・タバール マイケル・スタールバーグ 大川透
映画について語る映画を観ると、かつて出会った映画人を思い出す。それは隅の隅とはいえ、映画に関わっていた頃の思い出でもある。先日亡くなった森田芳光監督が「僕は映画を撮る為なら何だってだってしますよ」が言うのを聞いた事がある。そう言った監督の心中の本当の所は分からない。けれども映画への計り知れない強い思いがあったのには間違いはない。映画の黄金期を生きた老監督は「三度のメシより映画が好きな連中が作ってたんだ。面白くないわけはない」と胸を張った。かつての名監督はWOWOWなどで再評価された自分の作品がかかる時は「観て下さい」と照れながらもうれしそうに日時を教えてくれた。作る側も観る側も等しく多くのものを抱え、ここまで映画は来たのだ。これからも花も嵐もあるだろうが、困難を乗り越えて数々の名作が生まれん事を!!



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