映画「ツナグ」感想

ツナグ、彼らが繋ぐのは人の想い
連綿と繋がっている命。人間が人間となった時から今この時まで繋がっているからこそ、貴方がいて私がいる。絆を描いている映画だとあっさりと決め付けてしまうのは、少し違う気がする。そんなものではない気がする。
最近、成年後見の勉強をしている。悪徳弁護士や司法書士の餌食にされ、”合法的”に財産を剥ぎ取られ、この世での居場所も、生きる希望さえも無残に砕かれ、打ちひしがれている人々があまりにも多いのに胸が痛くなる。人生の最後を失意のままに死んでいく。弱い人々を食い物にした彼らは法律上の罪はなくとも、人間としては重罪だ。
人生の最後の近い祖母と人生はこれからの孫
二人の古風な家での暮らしが丁寧に描かれている。つつましくとも暖かい暮らし。それがあるから、死者と話すというオカルトじみた設定が浮かないで、ドラマがきちんと作られるのだ。松坂桃李と樹木希林が素晴らしい。いつまでもと願いながら、この生活の終焉が近い事を何処かで感じている、そんな祖母と孫の気持ちを十分に伝えてくれる。
少年は若者の気軽さで祖母の”ツナグ”の役割を手伝い始める。相手に感謝されてうれしくなり、やりがいがあると思う。だが祖母は渋い顔。死者と生者を逢わせる事は、生者を必ずしも幸福にするとは限らないからだ。

少年は考える、自分の役割を・・未熟ながらも一生懸命に考える
それぞれの登場人物に味わいがある。エピソードも悪くない。惜しむらくは後半に「ここでエンディングかな?」と思わせる盛り上げ方の演出が数回繰り返された為に、本当のラストの感動が薄まってしまった事だ。もう少しずつ小出しにして、最後にピークを持って来て欲しかった。
母の希望で観た映画。場内も母と同年代かそれ以上の方々ばかり。母は最近味をしめてしまったようだ。私に「この映画が観たい」と言えば、見やすい予約席が用意されて、ゆったりと映画を楽しめる事に。それもささやかな親孝行だと思えばw
人生で1度だけ、死者に逢えるとしたら、私は誰に逢いたいかな。切実に逢いたいと願う人が咄嗟に浮かばないという事は幸せなのかも知れない。
大きな声で「良かった!」と叫ぶのはふさわしくない映画。八千草薫さんのような歳月に洗われて磨き抜かれた飛び切りの綺麗な笑顔で「良かった」と言いたい映画。
STAFF
監督 平川雄一朗
原作 辻村深月『ツナグ』(新潮社刊)
脚本 平川雄一朗
監督補 塩崎遵
撮影 中山光一
美術 花谷秀文
編集 伊藤潤一
音楽 佐藤直紀
主題歌 JUJU『ありがとう』
上映時間 129分
CAST
松坂桃李 渋谷歩美
樹木希林 渋谷アイ子
佐藤隆太 土谷功一
桐谷美玲 日向キラリ
橋本愛 嵐美砂
大野いと 御園奈津
遠藤憲一 畠田靖彦
別所哲也 渋谷亮介
本上まなみ 渋谷香澄
浅田美代子 御園奈々美
八千草薫 畠田ツル
仲代達矢 秋山定之
年配の紳士が急病で倒れた為、上映が中断した。15分位。さすがに人生のベテランの多い場内、慌てず騒がず。劇場側の不手際ではなく、お客様の都合での中断だった為か、お詫びのチケット等はなし。期待する声も多かったけれどw
しかしパニック映画の「2012」の時は火災報知器が鳴り出して映画が中断し、今回は老人の急病で中断。それとなく映画の内容とシンクロしているような。
死者と生者の逢う場所と定められたあのホテルは、ホテルニューグランドだそうだ。見た事があると思った。本館の1階のカフェで、何度か食事をした事がある。クラシックホテルが大好きな私。そういえば、牡蠣の殻の開け方を教えてくれたのは、このホテルの元シェフを父親に持つ先輩だった。あの頃は、ホテルのバーでカクテルを頼んでも様になる大人になりたいと思っていた。



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