映画「007 スカイフォール」感想

ジェームズ・ボンドのルーツに迫る物語
タイトルの意味は中盤で明らかになる。ハイラインドの荒野にぽつんと建った廃屋。かつては地方の豪族の屋敷であったのだろう。厳しい自然の中で、人は生き、人は集まり、人は国を創る。連綿と守って来たものがいずれは失われると思う事もなく。後に残る廃墟に吹きすさぶ風のみが、人々の祈りの残渣を蹴散らしていく。
ジェームズ・ボンド、彼はここで生まれた
両親を失った日、少年が隠れた秘密の通路。二日後に出て来た時、彼は大人になっていた。昔の彼を知る老人、たった一人の彼の味方。多勢に無勢、それでも”自分の土地”で彼は戦いを挑む。任務と人情の間で切り捨てられた男の恨み。苛酷な任務、報われぬ犠牲。時代遅れといわれても、祖国への忠誠のために尽くす。
売国奴は政府の中におり、祖国を破壊する。
矛盾の中で007が選んだ道は・・

往年の007を数本続けてみる機会があった。ダニエル・クレイグは悪い役者ではない。だが007となるとどうだろう、私の中では違和感が拭えない。彼には粋さがない、ボンドガールといてもその手の色気がない。誤解される言い方かも知れないが、彼の顔は労働者の顔なのだ。国家機密を扱うより、額に汗して働く方が似合う。
ショーン・コネリーの007は、トランプでいらないカードを切る時のようにやや面倒臭そうに銃を撃つ。どんな時でも人生を楽しむ余裕がある。命をかける事も任務を全うする事もマティーニの品定めをする事も、彼には同じ事なのだ。それを原点としてしまうと、ダニエル・クレイグは辛い。

映画そのものは悪くない。
一度は任務を離れたスパイの葛藤、上層部や政府の思惑。時代の変化の中で、過去からやって来た亡霊が強敵として立ちはだかる(いささか定番過ぎて魅力に欠けるが、髪の色だけは目立って良かった)。スパイは孤独だ。だがそれとは別の意味で、たった一人になるまで追い詰められた男の選んだ最後の戦場が故郷・・というのも良い流れだ。荒涼とした大地が彼の心象風景に思える。アジア趣味に傾きすぎているのは、それも時代の流れ、昨今の欧州よりもアジアの元気の良さの反映なのだろうか。
派手な銃撃戦、守りきれなかった命
それでもボンドは007である事をやめる事はない。破壊されたアストンマーチンはこのシリーズの過去との決別なのか。にもかかわらず、ラストはショーン・コネリー時代へのオマージュになっている。
生まれてから半世紀、人気シリーズの抱える葛藤が全編に滲み出た映画だった。
Skyfall
監督 サム・メンデス
脚本 ジョン・ローガン ニール・パーヴィス ロバート・ウェイド
原作 イアン・フレミング
音楽 トーマス・ニューマン
主題歌 アデル「スカイフォール」



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