映画「オーガストウォーズ」あらすじみたいなもの

2008年8月8日、グルジアがロシアの南オセチアに侵攻した”8月戦争”を背景に、突如として戦争に巻き込まれたシングルマザーが、戦場の真っ只中に置き去りにされた幼い息子を救いにいく物語。
冒頭は、少年が主人公のファンタジー風。選ばれた少年コスモボーイがロボットと共に魔王に立ち向かい、魔法の粉を取り戻そうとするシーンから始まります。ハリポタが混じったような雰囲気。魔王の攻撃から身を挺してコスモボーイを守ったロボットは破壊されてしまいます。魔王に打ち勝った少年は大切な魔法の粉で、親友のロボットを蘇らせようと・・
ここで、舞台はチョーハ少年(冒頭のシーンではコスモボーイ)の見ている子供向け演劇の劇場へと変わります。コスモボーイに扮した役者が呪文(この呪文が映画の中に何度も登場します)を唱えると、ロボットが蘇るシーンを携帯で撮影して「一番好きなシーン」だとママに送るチョーハ。でもママのクセーニアは、そんな事より新しい恋人とイチャつくのに忙しい。イケメンで銀行員のエゴール、彼にとってクセーニアは身体が目的といった感じの扱い。なのにクセーニアはプロポーズされると思い込んでいる。
パパはいない、ママも自分よりも恋人に夢中のチョーハにとって、空想の世界のロボットだけがお友達。ロボットは”自分を守ってくれる”存在の象徴であるのです。だから折に触れて優しい笑顔のロボットが、現実にオーバーラップして登場する事となります。
グルジアの国境近くにいる元夫のザウールから電話。そこは平和維持軍の夫の赴任先であり、彼の実家のある場所でもある。両親が孫のチョーハに会いたいと言っているというのだ。ロシアとグルジアの両軍がにらみ合う地帯だけに、クセーニアは心配しますが、ザウールは素人の杞憂だと鼻先で笑う。チョーハがいなければ、エゴールとソチで熱い夜が過ごせるとばかりに、チョーハを迎えに来たザウールの友人に託す。
なのに・・ノリノリのクセーニアに逆に引いてしまうエゴール。
ケンカの後に自宅に戻ると、ネットではグルジア侵攻のニュースが。急遽、チョーハを迎えにと旅立つクセーニア。エゴールとラブラブする予定だったひらひらピンクのミニスカートの格好で。すでに戦争の緊張が支配している現地。チョーハのいる村に向かうバスはない。だが何やら紙幣を握らせるとこっそりと向かってくれるバスがあった。
動いているのが不思議な位にボロボロのバス、乗客は地元の人間ばかり。派手な格好の美人に露骨な視線を向ける男達(スケベ心をストレートで隠さない、逆に潔いほどに自分に正直なのが笑える。それはこの後に登場する野郎どもほぼ同じ)。運転手は玉ねぎに塩をつけ、横にパンを置き、バリバリ食いちぎりながら運転する。ヒヨコやら林檎やらをかばんに詰め込んだ人もいる。バスが故障してもあまり動ずる事もなく、トラックを連れて来て引っ張らせる。山中の道の長旅に飽きると、人々は歌い始める。それが妙に上手い、みんな良い声をしている。
ザウールの村の描写でも、村人が楽器を操り、大人も子供も、軍人のザウールさえもたくみなダンスを見せるシーンがありました。こういう地方文化がまだ生きている地域がある、ロシアはまだまだ広い国なのだなと思いましたよ。日本ではほとんどどこでも均一化していて、色濃く地域の文化が残っている場所は少なくなっていますよね。
こういうシーンを見ていると、都会の生活との違いを実感すると同時に、人の幸せとは何かと考えてしまうのですよ。そしてその後、もっとその事について考えるような展開となっていきます。
ミサイルの雨が降り注ぎ、バスは破壊。
敵の攻撃から逃げ延びたクセーニア、ザウールは戦争が起きている件を誤魔化そうとしますが、現地にいるクセーニアに嘘は通じない。とにかくまだ家にチョーハがいるとわかって、どうしてもチョーハの元へ行こうと決意する。
ここから「母は強し」の物語が始まるのですが・・実は、助けてくれる男性が次から次へと現れるのですよね。金髪美人のクセーニアを見た途端、男達は「おw」という顔になる。露骨に顔に出さなくても、そう思っているのが感じられるというかwなんと愛すべき正直な男達w人道的とか何とかと難しい理屈を無理に並べるより「美人に親切にしたい」という男の本能のなせる業だと、素直に思えば良いのです。
戦闘勃発を受けて、政府のお偉い面々は会議を繰り返す。軍人は反撃と侵攻を、ご意見番は世界情勢に考慮して弱腰。相手が先に手を出して来たとはいえ、それを証明出来ずに動けば、ロシアの方が侵略したと他国に非難されると主張するご意見番。意見はまとまらない。大統領はそれでも決断をせねばならない。プーチンさんやゴルバチョフさんのそっくりさんが、それに見合った意見をいうのが面白いです。そして大統領が「時代は変わった」とゴルバチョフさんのそっくりさんに退出を命じるあたり、現在のロシアの現状を垣間見せてくれる仕立てになっています。2008年当時の真偽はともかく。
一方、チョーハは祖父母と父親が戦車に吹っ飛ばされてひとりぼっちに。
チョーハの空想の中では、戦車は魔王の手下のバケモノに(それが宣伝で多様されたトランスフォーマーもどきのロボットの正体なんですね。ずっと観ていると、やや古めかしいCGが返ってロシアという進歩と停滞のカオスの国に似つかわしい気がして来るのですよ)。バケモノに怯えたチョーハはテーブルの下に隠れたまま。途中で一度外に出ますが、その時に頭に負傷、危ない状態に。
途中はほとんどゲームのシーンのようです。MGSあたりをプレイした方なら、見たようなシーンの連続ではないかと。それにしてもクセーニアのスキルの高さは半端ではありません。報道関係者でないと通れないと言われると記者証を盗んだり、敵陣を潜り抜けるスニーキング技術もなかなかのもの、軍用の車を盗んでカーチェイスまで繰り広げます。走れば超人的な体力と脚力を披露。敵の銃口の前でも、傷ついた息子をかばって毅然と顔をあげ「貴方の母も同じ事をする」と言い放ちます。あの例の”おそロシア”という言葉を心の中でつぶやきたい気持ちに何度もなりました。
途中、リョーハという有能な軍人と巡りあったのが、クセーニアの何よりもの幸運でした。彼は「足を引っ張ったら射殺する」と表向きは怖い事を言いますが、彼女のために出来る限りの事をしてくれます。最後、助かった二人に会いに来るリョーハ。チョーハも好感をもった模様。
ラスト、クセーニアの家の電話の留守番電話。エゴールから何度も伝言メッセージが。クセーニアから返答がない事にどんどんあせって来る内容の変化が面白い。そして最後に一件、リョーハからのメッセージ。まあ、順当ですねw
映画「オーガストウォーズ」感想というか感慨というか
August Eighth
監督ジャニック・ファイジエフ
脚本ジャニック・ファイジエフ
撮影セルゲイ・トロフィモフ
クセーニア(シングルマザー)スベトラーナ・イヴァーノヴナ
ザウール(平和維持軍の軍人、クセーニアの元夫)エゴール・ベロエフ
リョーハ(ロシア軍の偵察部隊の指揮官)マクシム・マトヴェーエフ
チョーマ(クセーニアの息子)アルチョム・ファジェーエフ
エゴール(クセーニアの恋人銀行員)アレクサンドル・オレシコ

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