ヴィヴェカ・ステン「静かな水の中で」

北欧サスペンス「凍てつく楽園」の原作。スウェーデンの女流作家ヴィヴェカ・ステンのミステリー小説。 美しい砂の島サンドハムン島を舞台にした「サンドハムン・シリーズ」の第一作。
先にスウェーデンのTV4で制作されたドラマを見た。
ストックフォルム群島に浮かぶ無数の島の中のひとつ、サンドハムン島。ヨットのメッカであり、多くのサマーハウスのある避暑地。昔からの島人は穏やかな暮らしを営み、ほとんどが顔見知り。夏のシーズン以外は喧騒とは無縁な世界。
そんな場所で起きた殺人事件。
愛娘の突然死で失意の中にいる刑事トーマスと、サンドハムン島で育った幼馴染のノラを中心に、物語は展開していく。ドラマでは、登場人物や人間関係、事件の内容も整理され、改変され、再構築されている。
一冊の小説の持つ膨大な情報量を、数時間にまとめるためには、成程、そうでもしなければ収まらなかったのだろう。原作のエッセンスは損なわず、視聴者に物語を解りやすく伝えるためには、惜しみながらも切り捨てねばならなかった事柄も多かったのだろう。それが小説の映像化というもの。個人的には成功していたと思う。
一番の違いは、トーマスとノラの関係。ドラマでは恋愛感情が感じられたが、原作では仲の良い幼馴染以外の何者でもない。自己中心的な夫ヘンリクにノラが虐げられるのは同じだが、トーマスはノラに同情しつつも、親友の立場からは一歩も出ない。
警察内部での人物図も異なる。遺体の発見の場面も事件の経緯も違う。
ドラマでは、北欧の灰色を帯びた空と海、薄い色の髪と青みがかった瞳の人々が、常に北の気配をはらんでいる風に吹かれ、足元の砂を空しく踏みしめる姿を見る事が出来るが、小説の世界でも、澄んで冷たい空気と太陽の遠い人々の暮らしと息遣いが、文章から伝わって来る。
ドラマを見た後だと、途中が冗漫に感じるが、それはドラマの功罪で小説は悪くない。
失敗だらけの人生からのしあがろうとした者、平凡な人生を破壊された者、始めは殺意など何処にもなかった。悪意など何処にもなかった。なのに不幸なめぐり合わせが、幾人もの人々の人生を狂わせた。そして不幸を抱いたまま、静かな水の中に皆飲み込まれてしまった。
海は何事もなかったの如く波を打ち寄せ、島の夜はまた長くなる。
ドラマの感想はこちら↓
北欧サスペンス「凍てつく楽園」~死者は静かな海辺に~ 第1話 感想
北欧サスペンス「凍てつく楽園」~死者は静かな海辺に~ 第2話 感想
(終)北欧サスペンス「凍てつく楽園」~死者は静かな海辺に~ 第3話 感想

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