映画「フューリー」感想

フューリー ブラッド・ピット

「前線は何処ですか?」

新兵のノーマンの質問に、泥にまみれた男達が笑う。すでにここは戦場なのだ。今も彼らは敵の銃火の下に身を晒して来たばかりなのだ。ここでは良識も礼節も邪魔なだけ、必要なのはたったひとつ「敵を殺す」事だけなのだ。

硬派な戦争映画。

1945年4月の物語。当時の歴史を紐解くに、3月に米英軍がライン川を渡り、4月1日にはドイツの工業地帯ルール地方の包囲に成功し21日に降伏させた。ヒトラーは4月29日に自殺、ベルリンは翌4月30日に降伏。「じきに戦争は終わる」というセリフが映画の中にもある。

反戦思想や人道主義やお涙頂戴など、この手の映画に当然の顔をして盛り込まれる要素をギリギリまでそぎ落とし、ひたすらに戦争の真っ只中でフューリーという一台のシャーマン戦車と戦車に乗り込んだ五人の男達の姿を描いていく。

自国民すら逆らえば平気で殺すナチの残虐さ。彼らが守っていたのはドイツという国ではなく、自分達の”思想(妄想というべきか)”だけなのだと良くわかる。同時に戦争がいかに人間を歪めていくか、歪まなければ戦場にいられない過酷さも伝わって来る。

映画 フューリー Fury ポスター 42x30cm ブラッド ピット ドン・

ブラピがいい

大量のB-17爆撃機が頭上を過ぎていくのを見上げる彼の顔が実に良かった。戦略にたけた”ウォーダディー”と呼ばれる軍曹。仲間の信頼も厚い。普段の態度を見ていると豪快な鋼鉄の如き神経を持った男に見える。だがひとりになった時、不意に辛さや無念さをあらわにする。冷酷なのではない、絶対に部下には弱気を見せないだけなのだ。それが自分の役割だと心得ている。本来は知性も教養もある男である。ドイツ女性のエマやイルマには紳士の顔も見せる。ここは映画の上手い所で、他のクルーの下衆なふるまいとの対比が効果的。

ノーマンの視線が映画を織り上げる重要な糸となっている。

ノーマンの幼さを残した顔が、戦場の埃に黒く染まっていくにつれ、あれだけ人を殺す事を拒否した彼が「ナチめ!」と叫びながら銃を撃ちまくる兵士へと変貌していく。ノーマンが”良心”を理由にドイツ兵を撃たなかったために仲間が死んだ。その現実の前には”良心”という言い訳は通用しないと悟るしかなかった。一人前の兵士になったノーマンは「マシン」という呼び名をもらう。

ノーマンの体験する通過儀礼の数々。

それが戦争の悲惨さと共に、戦場の無骨な現実を教えてくれる。安っぽいヒューマニズムや感傷は抜きで。この映画に”良心”があるとしたら、まさにこの部分だと思う。

イザヤ書〈1〉1~22章 (ヘブライ語聖書対訳シリーズ)

イザヤ書6章8節

Also I heard the voice of the Lord, saying, Whom shall I send, and who will go for us? Then said I, Here am I; send me.
そのとき、わたしは主の御声を聞いた。「誰を遣わすべきか。誰が我々に代わって行くだろうか。」わたしは言った。「わたしがここにおります。わたしを遣わしてください。」


彼らはヒーローになろうと思ったわけではない。Here am I、そこに居たから、その場で出来る最善の道を選んだに過ぎない。これまでの幾多の戦場と同じように。そう、そこに居たから。

狭い戦車の中で、隠してあった酒瓶をドンが取り出し、全員で回し飲みする。最期の酒をしみじみと味わい、男達は戻れぬと解っている戦いに出て行く。動けぬ戦車、多数の敵の攻撃、尽きる弾薬、次々と倒れていく仲間達、ドンも銃弾を浴びる。苦しい息の下で、ノーマンに逃げるように命令するドン。若い彼の命を惜しんだのか、誰かに自分達の戦いを覚えていて欲しかったのか。脱出用のハッチから戦車の真下に逃れ、身を潜めるノーマン。SSのライトが彼を照らす。だが上官に呼ばれた兵士は行ってしまう。おそらくは新兵、かつてのノーマンのように”良心”がそうさせたのかも知れない。

1/48 ミリタリーミニチュアシリーズ No.04 ドイツ 重戦車 タイガーI 初期生産型 32504

鳴り物入りのティーガー戦車(タイガー戦車と以前は言っていたような)との激闘は実はあっけない。本物とはいえ骨董品に無理をさせるわけにはいかなかったのだろうし、戦車戦のドンパチを派手に描くのが本筋の映画ではない。それでも本物は本物だ。作品に花を添える役割は大きい。

実際、この内容をそのまま宣伝する事は難しかっただろう。今の日本では、こんな硬派な戦争映画を見ようと思う人間はあまりいまい。だからこそ宣伝は、ブラピを大々的に最前線に立て、秋山殿や萌え戦艦キャラなどを動員して分厚い援護射撃を用意したのだろう。作戦は成功だ、ウォーダディーの戦略の如く。続々と詰め掛けた観客は誰もがノーマンの気持ちを味わい、ノーマンと同じ体験をしたであろう。

Here am I、それは私達。映画館という戦場に送られた新兵。


映画 フューリー Fury ポスター 42x30cm ブラッド ピット ドン・

Fury

STAFF
監督 デヴィッド・エアー
脚本 デヴィッド・エアー
製作 ビル・ブロック  デヴィッド・エアー  イーサン・スミス  ジョン・レッシャー
製作総指揮 ブラッド・ピット  サーシャ・シャピロ  アントン・レッシン  アレックス・オット  ベン・ウェイスブレン
音楽 スティーヴン・プライス
撮影 ローマン・ヴァシャノフ
編集 ドディ・ドーン
製作会社 Le Grisbi Productions QED International
配給 コロンビア映画 KADOKAWA

CAST
ドン・"ウォーダディー"・コリアー ブラッド・ピット
ボイド・"バイブル"・スワン シャイア・ラブーフ
ノーマン・"マシン"・エリソン ローガン・ラーマン
トリニ・"ゴルド"・ガルシア マイケル・ペーニャ
グレイディ・"クーンアス"・トラビス ジョン・バーンサル

"オールドマン"・ワゴナー大尉 ジェイソン・アイザックス
マイルス スコット・イーストウッド
パーカー ゼイヴィア・サミュエル
デイヴィス ブラッド・ウィリアム・ヘンケ
イルマ アナマリア・マリンカ
エマ アリシア・フォン・リットベルク
ピーターソン ケヴィン・ヴァンス
ドイツの伍長 ブランコ・トモヴィッチ
フォスター イアン・ギャレット
ヒルダ・マイヤー ユージニア・カズミナ
エディス ステラ・ストッカー


ドイツとの戦いですから、ドンがドイツ語を話せるというのも彼の強み。ドイツ語は大学で2年やったのにすっかり忘れてます。Bitte位は解りましたがw

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