映画「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」感想

「私に手を触れるな」
押井さんはやはり押井さんだった。
この実写の価値はそこにある。
これは現代社会への風刺でも啓蒙でも問題提起でも何でもない。
これまでも連綿と執拗に繰り返されて来た幾つもの符合、記号、暗号。埃まみれの戦後、高度成長期の錆びた鉄の匂いと、腐って淀む水に潜む記憶をあぶりだす魚眼レンズ。犬は何処にでも存在して、たとえワンカットであっても存在を主張せずにはいられない。それは良心とか自己顕示とか確信犯とかどのようにでも解釈出来るとしても、犬は犬なのだと言わんばかりに。
ゆるい日常から肌がひりつくような戦場へ。
その転換が真骨頂。ポップコーンをつまむ手が止まり、カップルはいちゃつくのを忘れ、そこで起きている戦闘(何も撃ち合うだけがすべてではない。数々の駆け引きもそれの内)に釘付けになる。頭上から降り注ぐヘリの爆音を浴びながら。
レイバーはほとんど動かない。ひたすらに大破するのみ。だが15秒を無駄にはしない。
(南雲さんに榊原良子さんを使うのが可能だったのなら、いっそ全部吹き替えにしてもらえたら、もっと”正面”のくだりが盛り上がったろうに。 冨永み~なさんと古川登志夫さんならば、ラストの学芸会も緩和されたと思われる)
灰原の正体についての謎・・次を作るつもりだろうか。
STAFF
監督 押井守
脚本 押井守
原作 ヘッドギア
音楽 川井憲次
制作 東北新社/オムニバス・ジャパン
製作 「THE NEXT GENERATION -PATLABOR-」製作委員会
配給 松竹
CAST
泉野 明(いずみの あきら)真野恵里菜
後藤田 継次(ごとうだ けいじ)筧利夫
塩原 佑馬(しおばら ゆうま)福士誠治
カーシャ(エカテリーナ・クラチェヴナ・カヌカエヴァ)太田莉菜
太田原 勇(おおたわら いさむ)堀本能礼
山崎 弘道(やまざき ひろみち)田尻茂一
御酒屋 慎司(みきや しんじ)しおつかこうへい
シバシゲオ 千葉繁
淵山義勝(ぶちやま よしかつ)藤木義勝
高畑 慧 高島礼子
柘植 行人(つげ ゆきひと)香川耕二
灰原 零 森カンナ
小野寺 吉田鋼太郎 (吉田鋼太郎さんは「トクボウ」の鶴井風だった)
南雲 しのぶ(なぐも しのぶ)(演)渋谷亜希(声)榊原良子
AH-88J2改グレイゴーストの離陸シーンのCGが安っぽいのが気になった。
それがこの映画の、あるいは邦画の限界なのだろうか。
筧利夫さんと高島礼子さん、榊原良子さんの声の力量で盛り上げた中盤。
後藤田の筧利夫さん、後藤さんに乗り移られたように魚眼レンズが実写でも違和感のない人になっていた。どこまでも後藤さんを出さずに、後藤田さん=後藤さんと錯覚させて、そこに南雲さんを重ねて来るアイデアがいい。
森カンナの灰原も良いヴィジュアル
撃墜した後の状況を確認もしないで終わった気になっている面々等、突っ込み所は多いが、無能満載の警視庁の幹部がグレイゴーストのガトリング砲で吹っ飛んだ時は観客もスカっとしただろう。そこまでの陰湿な保身と過去から何も学ばない展開に、パト2の記憶が二重写しになる中で、先代の意思を継いだ後藤田さんは連行される事なく、彼を排除して己の安泰のみを画策した人間達の方が排除されたのだから。
この劇場版までの長すぎる蛇足に見える7章までの物語。あの無駄があったからこそ、面白いと思えるのかも知れない。あれはお遊びの果てにある本気を隠しておくためのもの。その本気は四角四面に青筋立てた本気ではなく「みんなで幸せになろうよ」的な本気。でも本当はその方が怖い。
シバさんをもっと見たかったな。

ららぽーと豊洲の期間限定パトレイバーカフェ。イングラムをイメージしたホワイトレイバーとロシアをイメージしたAK47スペシャル。オリジナルコースター付き。レインボーブリッジが見えます。
パトレイバーカフェのレポートは→こちら
(追記)
TOHO六本木でドルビーアトモスのパトレイバー二度目の鑑賞。頭上のヘリの移動、クリアな機械音、後藤田さんの視線の方向から聞こえる声(あの演出の真の意味はこれだったのね)。大画面と良い音響のタッグは最強。

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