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映画「花戦さ」感想

☆もるがん☆

花戦さ

花の作り上げる空間の美しさ、広がる世界はまさに宇宙、すべてを包み込む。それは人をも包み込むもの。専好は花で、利休は茶でなしとげた境地。

「お・も・て・な・し」の大騒ぎも一段落した感のある日本ですが、そんな時だからこそ見て欲しい映画かも。秀吉の金ぴか茶室と利休の抵抗の意味するものも。「おもてなし」が誰かの思惑や虚栄心を押し付けるものではない事も。

信長は暴君と言われようと一国一城の主なるべく名門の家で育てられた人物、教養と審美眼も当然として備わっていた(そのあたり中井貴一さん良かった!)。秀吉は典型的な成金趣味、形だけ真似てはみてもどうしても追いつかない。そこに権力だけが膨れ上がって、傲岸不遜となってしまったという流れ。

利休もまた茶の世界では極めてしまった人物。だがそれゆえに同じ高みまで達した盟友もおらず、孤独と苦悩の中にいたのかも知れません。そこに専好、人並はずれた花への無垢なる心を持った者が現れ、道は違えど同じ高みに達した者同士、通じるものがあったのでしょう。

秀吉のために、利休はすべてを失い惨めに死にざまを晒され、専好も周囲の縁深き人々を殺されてしまう。大いなる権力に立ち向かうは花の力、それは・・・という筋書きも面白い。

「花戦さ」オリジナル・サウンドトラック

野村萬斎の専好がいい。

狂言という伝統芸に鍛え上げられた全身で、稀有な人物を演じてくれる。無垢が白痴に陥りそうな危うい線で踏みとどまり、時折見せる凛とした姿に只者ではない気配を感じさせる。枝を持ち上げる「やい、やい」という場面など、狂言の魅力もさり気なく入れて。

専好の周囲の人々も良い人が多かったです。高橋克実の安定感。邦画の悪癖のゴリ押し恋愛要素になるのかと、悪い予感がよぎった蓮(れん)も純粋なひたむきさが出ていて良かった。これは時分の花というやつかも知れないけれど。

利休はもう少し油っ気が抜けていて欲しかったかな。でもお父さんに似て来ましたね。「64」の時は良かったし、役者として良い部分が多々ある方なので、あくまでも欲を言えばですw

猿之助だから”さる”を演じたのではないとは思うけれど、亀ちゃんの頃から好きな猿之助の秀吉もいい。時代劇がTVから消え去った今、どんどんと何もかもが廃れていく中で、貴重な人材だと思う。猿之助と仲良し(?)の佐々木蔵之介の前田利家との連携も良い感じ。

池坊がおそらく総力あげてだったと思う花々も見所です。他の流派ですが、小学生の時から学んでいた私が言いますが、撮影の間中、あれだけの花を、あれだけのクオリティで維持していくのは大変だったと思います。花の命は短いし、それを延命するためには、とてもこまめに手入れをせねばなりません。それをあの膨大な量をと思うに。嗚呼、久々に真っ当に向かい合って花をいけたくなりましたよ。

その花が主役の圧巻のラスト。

死を覚悟の上で、秀吉を諫める専好。それもただ悪いと言うのではなく、花には「それぞれ」に美しさがあると、己の狭い了見に凝り固まった秀吉の心を、花の力でほぐしていくのですよね。かつて自分が利休の茶に心解き放たれた時のように。そして緊迫した場面の後の笑い、秀吉もまたかつての専好のように、心解き放たれ、久しく忘れていた心からの笑いを笑う。ここ、猿之助が実にいい。

まとまりの良い映画なのは篠原哲雄監督の力量でしょうか。

釜の湯が沸く音を松風の音と言いますが、登り龍の松で始まり、松風の音の中で本心を吐露し、そして最後の秀吉に披露する松に繋がっていく・・個人的にいいなと思った所です。それが監督の意図した所かは解りませんが、私の中では。そういう意図しなくても勝手に観た側が感じるものも映画の内だと思っていますからw

花いくさ

STAFF
原作 鬼塚忠『花いくさ』(角川文庫刊)
監督 篠原哲雄
脚本 森下佳子
音楽 久石譲
劇中絵画 小松美羽
題字 金澤翔子
撮影 喜久村徳章
美術 倉田智子
編集 阿部亙英
録音 尾崎聡
協力 表千家不審菴、裏千家今日庵、武者小路千家官休庵
監修 華道家元池坊
後援 京都市
配給 東映

CAST
池坊専好 野村萬斎
豊臣秀吉 市川猿之助
織田信長 中井貴一
前田利家 佐々木蔵之介
千利休  佐藤浩市
吉右衛門 高橋克実
池坊専伯 山内圭哉
池坊専武 和田正人
れん   森川葵
石田三成 吉田栄作
浄椿尼  竹下景子
俵屋留吉 河原健二

音楽はこれも安定の久石譲。サントリーの伊右衛門風味の京風味どすえ。

food

鑑賞後に「京・茶房TSURU」で茶そばと豆かんてんのセット。鶴屋吉信のカフェだけに、豆もかんてんも普通じゃありません。さっくりとしたかんてんの歯ざわり良し。気分だけでも映画の舞台の京都にとw


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Posted by☆もるがん☆
映画

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  •  花戦さ
  • 花戦さ
  • 2017.06.30 (Fri) 22:47 | あーうぃ だにぇっと
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  •  『花戦さ』 2017年4月17日 東映試写室
  • 『花戦さ』 を試写会で鑑賞しました。 【ストーリー】  戦国時代の京都。花を生けることで世の平穏を祈る「池坊」と呼ばれる僧侶の中でも、専好(野村萬斎)は名手とうたわれていた。そのころ、織田信長(中井貴一)亡きあと天下を手中に収めた豊臣秀吉(市川猿之助)の圧政が人々を苦しめ、専好の友であった千利休(佐藤浩市)が自害に追い込まれる。専好は秀吉に対して、力ではなく花の美しさで戦おうと立ち上がる。...
  • 2017.06.30 (Fri) 23:06 | 気ままな映画生活 -適当なコメントですが、よければどうぞ!-