映画「GODZILLA 星を喰う者」感想

ゲマトリア演算が導き出した答えは「滅び」
すべてはそこに収束される。だがそれでも抗うのが人間
「わるいのは、ほそいひと」
劇場から出る時、父親に連れられた幼稚園児が発した言葉が耳に妙に残った。そう、この映画を観た時、単純に、ごく単純に見ればそうなのだ。すべてを企み、すべてを騙し、その美しい声で人々を星の最期へと導くために、長き時を見守っていた者。
最初から「ラスボスはメトフィエス」と言われてましたものね。もう、櫻井ボイスの独壇場ですわ。「この声が聞こえたら裏切られると思え」と名高い声、柔らかい音色の中に闇を感じさせる声、穏やかな顔の後ろに企みを隠している声。
三部作の完結編となるこの映画では、最初からメトフィエスは”侵略者”の顔を露わにする。宇宙人=侵略者、王道ですよ、この方式は。
「このアニメはゴジラじゃない!」と言われますが、実に良くゴジラのロジックが組み込まれているのですよね。ゴジラが戦争や原爆などの強大なる恐怖の象徴として描かれた原点に返ったともいえるし、あのギドラとの戦いでラッザリ博士が思わずゴジラを応援してしまうのも、ゴジラ映画の歴史の中でゴジラがいかにして人間の味方として描かれるようになったのか、実に端的に示している例とも言えます。ギドラという地球を脅かす存在に対して、地球そのものであるゴジラ、地球で生まれた人類が”共通の敵”としてギドラを見た瞬間・・そういう事なのですよ。
ハルオはメトフィエスが見出した存在、救済を願う人々の生贄となるべき。だからピエタのように、メトフィエスがハルオを抱く姿がキーヴィジュアルとなる。そしてハルオの慟哭は神の子の叫びを思い起こさせる。
「エリ、エリ、レマ、サバクタニ(わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか)」
祖父の乗った老人だらけの移民船の爆発から始まったハルオの葛藤、それを仕組んだのはメトフィエス。正体はエクシフの一神官ではなくエンダルフすら崇める存在。滅びこそが至高、運命ならばそれを受け入れ、穏やかに滅びを甘受する道へ人々に導く者。そのためにハルオを支え、励まし、歩みをうながした。
あと一歩でゴジラを倒せる所でハルオがビルサルドのやり方に反旗をひるがえした事で、アラトラム号で起きるビルサルドの反乱。緊迫する船内、だがそれすら、大いなる滅びの前では些細な事に過ぎない。ギドラによってあっという間に船そのものが消失してしまうのであるから。そんな対立などあっさりと消えてしまう、けた違いの力の前では。
残るは地球に降り立った人々だけ。それですら、ギドラを呼ぶ供物となって、首チョンパ、手足チョンパでさようなら。アダムくん、せっかく目立ってたのに、これもあっさりとさようなら。虚淵玄の脚本ですよ、まさか全員が生き残る結末とは誰も思っていませんでしたよね?こうでなかったら返って「どうした、虚淵玄!」と思ってしまうでしょう。
ハルオの最期に関しても、戦いが終わった後、戦士は不要になるという事ですよね。フツアと共に残った人々が融和して生きていく道を選んだ以上、ゴジラと戦う事は”負け”、生き延びて命をつなぐ事が”勝ち”。ゴジラ討滅の先鋒となっていた自分がいれば、せっかく文明を捨て、フツアの暮らしに馴染もうとしている人々の平穏を破壊してしまう。せっかくヴァルチャーを再起動出来て喜んでいる博士には悪いけれど。もう、ハルオにはゴジラに特攻するしかない、脳死したユウコと共に。過去を清算して未来だけを見てもらうために。そのための犠牲であるのですよ。だから、ピエタ。
しかし、ハルオ!ユウコに煮え切らぬ態度でいたくせに、ミアナでなくてマイナとあんなことして。このあたりは今の流行りのラノベ系ハーレムという事なのでしょうか。まあ、何の楽しみの知らずに散るよりは良かったという事でしょうか。
ギドラをこの世界の法則に引きずり込み、ゴジラの攻撃を有効にするために、ギドラの目となっているメトフィエスの目をつぶすハルオ、親指でぶすりと。これかなり来ます。抵抗しないメトフィエス、唖然としてというより、むしろそれすらも運命だと思ってかの如くに。閉じた両目から血を流し、岩に身を預けているメトフィエスをハルオが抱きしめるのは、どんな運命や策略があろうとも、ひとりの人間として同士の二人には、通じるものがあったという事でしょうか。たとえ国同士が敵対していたとしても、個人同士には友情が生まれるように。あまりにも科学が発達してしまったがゆえに、己たちには終焉しかないと、絶望しかないと悟るしかなかった種族と、未熟なゆえに常に希望を捨てなかった種族との間にも。
怪獣プロレスがないとか、色々言われているようですが、そういうのが欲しい方々には、ハリウッドゴジラが控えていますよ。モスラの美しい羽ばたきが印象的な予告が上映前に流れていました。クラシック音楽の流れる中、破壊されていく街も美しく・・・嗚呼、このアニメでもモスラが一瞬だけ見られますね。
結論を言えば、私はこの三部作のアニメが大好きです。
ツッコミたい所が多々あるとしても、それを言い出したら、それはどの作品もそうでしょう。作り手と受け手は同じ人間ではありませんから。
エンドロールの最後に、マーベル並みに映像がありますので、お立ちになるのは少し待って・・そこには素朴な祈りがあります。宗教になる以前の、素朴な祈りが。
STAFF
監督 静野孔文 瀬下寛之
ストーリー原案・脚本 虚淵玄
シリーズ構成 虚淵玄 村井さだゆき
脚本協力 山田哲也
演出 吉平“Tady”直弘
キャラクターデザイン原案 コザキユースケ
プロダクションデザイン 田中直哉、Ferdinando Patulli
CGキャラクターデザイン 森山佑樹
造形監督 片塰満則
美術監督 渋谷幸弘
色彩設計 野地弘納
音響監督 本山哲
音楽 服部隆之
プロデューサー 吉澤隆
製作 東宝
アニメーション制作 ポリゴン・ピクチュアズ
配給 東宝映像事業部
CAST
ハルオ・サカキ 宮野真守、洲崎綾(幼少期)
ユウコ・タニ 花澤香菜 ハルオの幼なじみ
マーティン・ラッザリ 杉田智和 環境生物学者 イタリア系アメリカ人
アダム・ビンデバルト 梶裕貴 操縦士 ドイツ人
ウンベルト・モーリ 堀内賢雄 移民船アラトラム号の船長 イタリア人
メトフィエス 櫻井孝宏 エクシフの軍属神官(大司教)
エンダルフ 山路和弘 エクシフ族長 軍属神官(枢機卿)
ムルエル・ガルグ 諏訪部順一 ビルサルドの技術士官
リルエル・ベルベ 三宅健太 ビルサルドの軍事教官
ハルエル・ドルド 中井和哉 ビルサルドの族長
ミアナ 小澤亜李 フツアの少女
マイナ 上田麗奈 ミアナの双子の姉

fc2が不調の際はお手数ですがTB用ミラーブログをご利用下さい
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- 劇場鑑賞「GODZILLA 星を喰う者」
- 詳細レビューはφ(.. ) https://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201811110000/ GODZILLA 星を喰う者 オリジナルサウンドトラック [ 服部隆之 ]
- 2018.11.12 (Mon) 19:40 | 日々“是”精進! ver.F
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- GODZILLA 星を喰う者
- 宗教種族エクシフの大司教メトフィエスは、ハルオが戦いに生き延びたことは“奇跡”だと唱え、信者を増やしていく。 そんなメトフィエスを警戒するミアナとマイナ。 そしてハルオは、自らが“人”として何を為すべきかを自問する。 やがて、地上の覇者となった究極の生命<ゴジラ・アース>と、金色の閃光を纏った高次元怪獣<ギドラ>が相まみえることに…。 アニゴジ全三部作最終章。
- 2018.11.14 (Wed) 00:17 | 象のロケット