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アナザーストーリーズ 運命の分岐点「名人がAIに負けた日 〜人間VS将棋ソフト〜」感想

☆もるがん☆

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今現在の将棋を観ている者として、とても興味深いものだった。

将棋ソフトがついに人類を超えた!2017年5月20日、将棋界の最高峰・佐藤天彦名人が人工知能AIと対決、9時間の激戦の末に敗北を期した。最強AIを生んだのは若きプログラマー。自身の手を離れて強くなる“我が子”におぞましさを感じたと明かす。一方、プライドをかけて向き合った名人やプロ棋士たちは戦いに何を見たのか?胸中を明かしてくれた。さらにAIで力をつけた新世代棋士たちも登場!AI共存時代の未来とは?

視点1 プログラマー 山本一成

最強の将棋AIポナンザの開発者。将棋ソフト「ボナンザ」に親しみ、作られた「ポナンザ」。当時のプログラマーは将棋の強い人が多かったという。彼自身も東大将棋部OBでアマ五段、だからこそポナンザが出来たのだろう。しかし彼はその後、あっさりと開発をやめてしまう。そこまでの道程が彼の欲したものであり、次の目的を達する為に。

「おぞましい」と彼は言った。人間を超え進化し続けるポナンザに。

このあたりは初期のコンピューターゲームと絡めて描かれ行く。チェスのAIと比較しながら。「取った駒を再利王出来る」事が当時のAIには荷が重すぎた。だが進化は早かった。日本将棋連盟の米長会長(当時)が、プロ棋士とAIの対局に待ったをかけた。棋士の価値を護るためであったのだろう。

芝居がかったプロ棋士への挑戦状、2010年に解禁されたAIとの対局。
引退した身とはいえ、米長永世棋聖が負けてしまう。

終盤、膨大な量を読み、ミスをしないAI。
人間は疲れる、ミスをする。だからAIは勝つと山本はいう。

プロ棋士と将棋ソフトとが戦う電王戦。棋士達の重圧はいかばかりであったろう。誰もが緊張した面持ち。もし自分が負けたら、プロ棋士の力はAIより下だと認定されてしまう、その恐怖。やはり長時間の戦いで疲れ果てたプロ棋士がミスをして負けてしまう。

次のポナンザの目標は、名人に勝つ事。
人間の知らない、人間を超える将棋を指す事。


視点2 棋士 佐藤天彦

瀟洒な部屋でインタビューに答える佐藤天彦九段が印象的。

日本将棋連盟の格付けとしては竜王の方が上だが、一般的に「名人」という呼称は将棋の最高峰の感覚がある。それは棋士の間でも同じ様で、永世竜王の称号を持つ渡辺明先生が初の名人を奪取した時も「名人は特別」と漏らしたと妻の伊奈めぐみさんの漫画「将棋の渡辺くん」に描かれていた。

「自分ひとりの身体ではない」

名人になった時の印象を、そう表現した佐藤天彦名人(当時)。その重圧たるや、相当のものであったろう。敗者となる事は、ひとりの棋士として負けるのではなく、プロ棋士全体の負けと見られるのだという。

2012年から2016年までの電王戦、棋士VS将棋ソフトは5勝12敗1引き分け。

そして2017年、佐藤天彦名人とポナンザとの対局。周囲の期待や思惑、その中で「自分なりの形で応えたい」と思ったという。第1局先手のポナンザの初手は3八金。解説の木村一基先生は「どうなっちゃってんのよ」と叫び、頭を抱える天彦先生。あまりにも型破りな手、ひふみん先生も仰天。新人なら「顔洗って出直して来い」と怒鳴られる手。だが天彦先生はそれを予感していた、人間なら指さない手を指して来ると。ポナンザだけが知る新たな将棋の世界。

人間のようなケアレスミスがない。

人間はどんなに経験を積んでも「勝ちたい」という感情がある。暴れる感情をコントロールしながら勝つ手を考える。AIには感情はない。そのために時間の使い方も変わって来る。苦しみながら、天彦先生は新鮮だと感じ「面白い」と思ったという。人間同士の戦いであれば通底する価値観がある、AIにはそれがない。第1局を投了、第2局も不利、解説も投了近しと見ていた。その中、棋譜を確認するなど粘る天彦先生。あがく事は「ご覧になっている方々の、その気持ちの部分」の為だったという。期待に応えられなかった、当事者としてそれを受け止めないといけない、自分の手で「AI対人間」に一区切りつけるという想いの重さ。

名人が負けた。

しかし、名人を責める者はいなかった。

現在、佐藤天彦九段は、独自のスタイルを創り上げ「貴族」の愛称で親しまれ、おそらくはあの時よりもさらに多くのファンを得て、あの時よりもさらに先を行く将棋の道を探し求めているように思える。まだ見ぬものへの不安と将棋の奥深さを味わう恍惚と共に。


視点3 棋士 豊島将之

AIは「敵」ではなく、AIを利用して強くなる。

「あどけないルックス」と三十路の男性なのにナレーションで言われてしまうのはどうかとは思うが、とよぴーと呼ばれ、きゅんと呼ばれ、カーディガンを着るだけで黄色い歓声が観る側で沸き起こる事を思えば、それも人徳という事で良いのかも知れない。9歳の豊島”きゅん”は確かに可愛い。

天才と呼ばれながら、自分には「才能がない」という豊島先生。AIに負けた時から、対人での勉強をやめた。それまでトップ棋士と対局してもミスをしてしまう自分に苛立っていた。電王戦でAIの可能性を感じた彼は、ひたすらソフトの研究に明け暮れた。人間同士は気を使って本当の事を言わない、言えない時もある。ソフトはその手は違うと計算結果が出れば「違う」という。研究の成果の膨大な序盤戦術が糧となった。そしてついに念願の初タイトルを手にする。

AIとともに新しくなる将棋。
現在では藤井聡太二冠をはじめ、AIで育った棋士達が活躍している。

だがやはり将棋の醍醐味は人間と人間との戦いにある。だからこそ棋士も棋士を目指す人々もファンも追い求めていくのだろう、AIと人間が競いぶつかり合い生まれた何かが、人間同士の戦いに組み込まれ、盤上に紡がれてゆく、その果てしなき物語を。


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番組がやや説明不足だったのは、ポナンザ以外の将棋ソフトの存在と叡王との関連など。全部の戦いが棋士VSポナンザみたいで。このあたりは補足がいる気がしましたよ。将棋に興味がないなら気にならないでしょうけれど。

その後、ドワンゴが手を引いて、電王戦との関係の深い叡王戦が危うくなり、不二家主催となって存続が決定したのは、ついこの前の出来事。あの「名人が負けた日」から、わずか数年で将棋の世界は色々と変化しているのですよね。

番組の中では、様々な棋士の姿も見られました。たとえば当時、永世七冠への道をひた走っていた頃の羽生善治先生の鋭い眼光。そして今、羽生九段は豊島竜王に挑戦中。AI登場の前後の世代の対決と思えば、これも感慨が深い。ファンならさいたろう先生やコール先生や永瀬王座の姿が嬉しいかも。

そういうわけで、自分の覚え書きとして、つらつらと。

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Posted by☆もるがん☆
将棋

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