映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」感想(ネタバレ)

さよなら、ジュピター・・・
昔キャンプに行った時、テントを張ると、大きなアンテナを立てて線をテントに引っ張りこんで、ポータブルTVでエヴァを見出した人がいました。大自然の中で、キャンプに来て、ここで?!と思うでしょうが、その人にとってみれば、テントにこもって家族にも邪魔されず、エヴァを堪能するためにここに来たという事だったのでしょう。「アニメなんか見て」とまだまだ嫌な顔をされる時代でもありました。他の仲間もそれぞれに燻製を作ったり、焚火をしたり、読書をしたり。そんな事を思い出したのですよ、この映画を見て。
今回のエヴァは、なんちゃらインパクトとかゲンドウの計画とか、細かい設定はその手の好きな人が、沢山分析してくれるのでおいておいて。
これを観に来た人の大半は、過去のTV版も映画も鑑賞済みだと思うので、そういう人達へのサービス、サービス!にあふれた作品であるのと同時に、庵野さんが好きな作品へのオマージュもいたる所に散りばめられているのがわかるかと思われます。
先行で公開されていたパリユーロ支部の場面の後、シンジ達は回収されます。そして生き延びていた人類の村に連れて来られます。そこで見知った顔に出会います。知りたかったですよね、かつての同級生の事。エヴァの呪いで歳をとらないエヴァのパイロット達をのぞいて、皆サードインパクトの後に歳をとっています。
鈴原トウジは医者として村人に信頼されています。なんと委員長こと洞木ヒカリと結婚して子供もいます。相田ケンスケは何でも屋として、結界の見回りなどをしています。ヴィレの設置した結界がこの村がコア化から守っているのです。もしそれが動かなくなったら村は全滅してしまう。
村に文明はほとんどなく、何もかもが手作業です。畑をたがやし田を植えて。他の村とのわずかな交流とヴィレの援助で生き延びているのです。ニアサー以降に生き残った人々が暮らす村ですが、東日本大震災から10年経った今だからこそ描けるのかなという気もチラリとしました。
シンジは泣いてばかり、廃墟となったネルフ基地でひとりで過ごしています。その間に、トウジの家に住む事になった初期ロットのアヤナミは「そっくりさん」と呼ばれるようになり、村の女性とともに働く事になります。こういう時のオバサン達の強さというのは、たとえば昔の東映作品のホルスとかジブリアニメなどにも登場しますよね。
いじけているシンジくんと異なり、綾波はオバサン達と過ごす中で、様々な事を吸収していきます。生きるという意味を知っていくのです。何もかもが新鮮で何もかもが驚きで。そんな素直な綾波を見ていると、戦いしか知らずに死んでいった他のクローン達の哀しさが思われます。
ですが、メンテナンスを受けられない綾波の身体はついに限界となり・・献身的な綾波にいつしかシンジも心を開いていたのですが。綾波は人の姿を保っていられなくなり、液体となって消えてしまう。シンジくんは綾波を失った事、かつての学友との交流の中で少しずつ大人になっていくのです。
ヴンダーが迎えに来ます。シンジはヴンダーへの搭乗を希望します。自分がヴンダーに監禁される事が人々を守る事だと考えたようです。しかしクルーの中にはサードインパクトを引き起こした張本人のシンジに憎悪を抱く者達もいます。爆弾が仕掛けられたアスカとマリの部屋を観るに、彼女たちも好かれている存在ではないようです。何をしでかすかわからないバケモノの仲間ですから。
そして物語は前半ののどかな農村風景から一転、ネルフとヴィレの全面戦争になっていきます。
セカンドインパクトのあった場所での決戦、裏宇宙とか何とかそのあたりはざっと流して。13号機の永久停止を目論むヴィレ、その前に冬月さん率いる戦艦やエヴァの群れが立ちはだかります。戦闘は見応えあり、冬月さんも単なるゲンドウさんの付き人ではない手腕を発揮。アスカは目の封印を解放、使徒の力を使って13号機にたどりついたものの停止に失敗、逆に取り込まれてしまう。ここで判明したのは、あのアスカはオリジナルではなくクローンであった事。綾波シリーズも式波シリーズもエヴァのために作られたものだったのです。
(予告の謎の少女も幼少時のアスカと判明)
大損害を受けたヴンダー、遂にシンジが初号機に乗る事に。そのシンジに銃口を向けるミドリとサクラ。シンジがエヴァに乗ったらまた惨事になると。シンジをかばったミサトに銃弾が。ミサトはすべては自分に責任があると「行きなさい」と言った自分に。
初号機の中にいる髪の長い綾波・・ずっと初号機を守って来たようです。
ヤマト作戦というのは、宇宙戦艦ヤマトのオマージュなのでしょうか。もはやエネルギーは底をつき状態で突っ込んでいくミサトさんを見るに。コミック版で話題になったマリとゲンドウくん達の関係も描かれています。
この後は、ゲンドウとシンジとユイの物語といって良いでしょう。生きる事に不器用な似た者同士の父と子。二人を繋ぐのは、妻であり母であるユイ。「もう一度ユイに会いたい」というゲンドウのわがままが、世界をこんなにしてしまった。たったそれだけの事が、これだけの長い長い物語を紡ぎ出してしまった。あまりにもあっけない理由、というかわかっていましたよね、皆さんもたぶん。単純だからこそ、深くも強くもなる。
人である事を捨てた父と息子は、エヴァで闘う。世界はイメージで作られ、今まで観た事がある場所、巨大なイナバウアー綾波、箱根であったり、学校であったり、綾波の部屋であったり、様々な場所で、親子ゲンカは続くのです。
そして・・
サードインパクトを止めたのが加持さんだった事も判明、ミサトさんとの間に14歳の男の子がいるのも。このあたりもサービス、サービス!加持さんの上司が渚カヲル君だった時もあったようです。カヲル君、イメージの世界の中でも出番が多いです。これもサービス、サービス!
エヴァのいない世界・・・・
この後もサービス、サービス!それぞれのカップリングについては、色々とご意見があるでしょうが。カヲル君とレイ、アスカとケンスケ、シンジくんとマリ。ラストの少し大人になったシンジくんとマリ、そうです、シンジくんは大人になったのです。「卒業」したのですよ、少年である事を。これはエヴァからの庵野さんの卒業でもあるという事で。
エンドロール後は特にないので、余韻にひたって歌を聴いて下さい。「One Last Kiss」の後に「Beautiful World」の別ver,が聴けます。まるでシンジくんが歌っているような歌ですよね。

プログラムはほとんど白の表紙。白は庵野さんの好きな色だそうです。あの手が掴もうとしているのは希望でしょうか、それとも・・プログラムは白いビニール袋で厳重に補完されています。中身にはネタバレがいっぱいだからです。写真もインタビューも。鑑賞後に読むのをおすすめします。声優さんや監督さん、それぞれに25年目の完結について熱く語っています。

入場者プレゼントの作画監督・錦織敦史による「式波・アスカ・ラングレー」描き下ろしイラストチラシ(B6サイズ/二つ折り)
モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は昔コーラスで歌ったので懐かしい。身体が槍で貫かれた方の歌。そう、槍で貫かれた。

fc2が不調の際はお手数ですがTB用ミラーブログをご利用下さい