映画「こんにちは、母さん」感想

「山田洋次なんて、今時需要あるの?」と言われました。
あるんですよ、人生を長く、あるいは深く生きた人たちには。
今や消えつつある個人の商店、母さんはそこで夫と生き、子供を育て、育った子供は一流の会社に勤め、結婚して娘もいる。ひとり暮らしの日々は、優しい牧師のいる教会やボランティア活動などで忙しい。
こういう日々の営みをさりげなく描いていくのが、監督の真骨頂。
平穏に見えても、そこには波風もあれば嵐もある。青天の霹靂というやつもある。それが人生。
息子は人事部長ゆえの職務の苦しみに耐えている。浮気妻とは別居、娘は祖母の所に住み込んでいる。大学の同期にはリストラ対象になったことを責められ(何でも人のせい、空気を読めない本人のせいだと思われるのに)、結局は友人を救う形で自分が責任をとって退職。友人はへらへらと礼をいうが、妻子があるのはお前だけじゃないぞと言いたい。だがこういう人間がいるのも人生。
家族はそれぞれの人生を生きている。
母さんは好意をよせていた牧師さんの転勤にショックを受ける。音楽会に誘われ、ショパンを聞く浅黄色の着物姿が美しい吉永小百合さん。この後、台所仕事をするのに、袖を帯にさっとはさむ仕草に着物に着慣れているのがわかる。
息子は退職、離婚で身軽になる。人生をやりなおすために、実家に戻って来たいと母さんにいう。愛する人を失って悲嘆にくれていた母さんは立ち上がる。息子と孫娘のために。いつまでもくよくよしてはいられないのだ。
誰かと出会い、誰かと別れ、また誰かと生きていく。
そこにある悲喜交々を丁寧に拾い上げ、端正な画面に仕上げていく。こういう映画はこれからも残って欲しい。精いっぱい生きて行こうと思う、生きて来たと思う人々がいる限りは。
STAFF
監督 山田洋次
脚本 山田洋次 朝原雄三
原作 永井愛
音楽 千住明
撮影 近森眞史
編集 杉本博史
プロデューサー 房俊介、阿部雅人
特別協賛 スターツグループ、キリンビール
企画・配給 松竹
製作会社 2023「こんにちは、母さん」製作委員会
CAST
神崎福江 吉永小百合
神崎昭夫 大泉洋
神崎舞 永野芽郁
荻生直文 寺尾聰
木部富幸 宮藤官九郎
琴子・アンデション YOU
番場百惠 枝元萌
昭夫の妻 名塚佳織(声の出演)
昭夫の部下 加藤ローサ
久保田常務 田口浩正
出前の配達員 シルクロード(フィッシャーズ)
明生 明生(立浪部屋)(本人役)
巡査 北山雅康
区の職員 松野太紀
足袋屋の客 広岡由里子
ボランティアの炊き出しに並ぶ男 神戸浩
いのさん 田中泯

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